バレ・リュー症候群と耳鳴り、その他の障害について

 交通事故でむち打ち損傷を受けると、首そのものの痛みや、腕から手指にかけての痛み・痺れ・違和感などの症状を訴えられるのが一般的です。
 しかし、実際のご相談では、頭痛、めまい、耳鳴りなど、様々な症状を訴えられるケースが少なからずあります。

 これらの症状は、その発表者の名前を採って「バレ・リュー症候群」と呼ばれることがあります。本稿では、バレ・リュー症候群について検討します。

  • むち打ちで頭痛になることもある。
  • バレ・リュー症候群は、基本的に後遺障害の対象とならない。
  • 耳鳴り等では、例外的に後遺障害が認められ得る。

バレ・リュー症候群とは

 バレ・リュー症候群とは、フランスの神経学者バレ(バレーとも言われる)が発表したもので、頚部交換神経が損傷することで発症する様々な症状のことを指します。
 診断書にこの名が使われることはあまりありませんが、実際の自覚症状としては頭痛や耳鳴りを訴えられることが多く、法律家としては留意しなければならない症状です。
 解剖図でいうと、下図の緑色の交感神経節が損傷部位ということになります。
頚椎の解剖イメージ

バレ・リュー症候群の症状

 バレ・リュー症候群の症状としてはは、頭痛が代表的ですが、めまい、耳鳴りや、目のかすみ等も挙げられています。
 その他、倦怠感、疲労感、熱感、脱力感、眩暈、耳鳴り、難聴、眼精疲労、流涙、視力調節障害、痺れ、肩凝り、背痛、腰痛、頭重感、動悸、息切れ、四肢冷感、食欲不振、胃重感、悪心、腹痛、下痢、便秘など不定愁訴に近い症状も起こりえるとされています。

後遺障害として認められ得るか?

 上述の諸症状が、頚部交換神経の異常に起因するものであれば、麻酔科、ペインクリニックに通院、交感神経ブロック療法を続ければ、多くは、2か月程度で改善が得られます。
 そして、改善が得られる以上、後遺障害の対象にはなりません。

 頭痛であっても、いわゆる「荒木の分類に」おける頭部外傷Ⅱ型以上を原因とする頭痛は後遺障害の対象ですが、バレ・リュー症候群であれば、対象から排除されています。

バレ・リュー症候群と後遺障害

 交感神経異常を原因とするバレ・リュー症候群の不定愁訴は後遺障害の対象ではありません。
 頭痛、眩暈、吐き気で苦しむ被害者の皆様は、整形外科以外にペインクリニックに通院し、ブロック注射などで症状の改善を目指すことになるでしょう。

耳鳴りは、条件が揃えば、12級相当が認定され得る

①むち打ちと耳鳴り
 むち打ちで耳鳴りを発症した場合、耳鼻科におけるオージオグラム検査で30dB以上の難聴を伴い、ピッチマッチ、ラウドネスバランスの耳鳴り検査で、耳鳴りが他覚的に立証されたときは、12級相当が認められ得ます。
 ただし、バレ・リューでも、耳鳴りを感じることがありますが、難聴を伴うことはなく、交感神経節ブロック療法で改善が得られることが多いようです。

②自覚症状の訴えと耳鼻科における検査
 通院治療先が整形外科でも、事故直後から耳鳴りの自覚症状を訴えておかなければなりません。
 そして、早期に耳鼻科を受診、オージオグラム検査を受けることです。
 症状の訴えがなく、2、3か月を経過すると、事故との因果関係は否定されるからです。

排尿障害、嗅覚の脱失は?

 外傷性頚部症候群が主たる傷病名であっても、排尿障害の症状があり、尿管カテーテルで強制導尿を実施している被害者に11級10号が、嗅覚の脱失で12級相当が認定されている事例もあります。

 排尿障害では、ウロダイナミクス検査で尿道括約筋の異常を、嗅覚の脱失は、T&Tオルファクトメーターで立証することになります。

まとめ

 交通事故で鞭打ち損傷を受けると、首そのものの痛みの他に、上腕部の痺れといった神経症状を訴えられるケースが一般的です。
 しかし、しっかりと聴き取りすると、その主訴以外にも様々な自律神経失調症状を自覚していらっしゃる場合も少なくありません。

 事故直後から自覚症状の訴えがあり症状固定まで継続していれば、原因は特定できなくとも、自覚症状が検査で立証されていれば、損保料率機構調査事務所は等級を認定しています。

外傷性頚部症候群の神経症状について

 本稿では、むち打ち、診断名としての「外傷性頚部症候群」の主な症状である「神経症状」について検討します。

  • むち打ちは「首の捻挫」と言える。
  • 首を痛めると、腕等に痺れを感じることがある。
  • 原因を特定するためには、MRIが有用であろう。

頚椎の基礎知識

頚椎の構造
 ほ乳類は、わずかな例外を除き、くびの長さに関係なく、キリンからカバに至るまで、7個の椎骨からなる頚椎を有しています(もちろん人間もです)。
 但し、7個の椎骨を特定する時は「第7椎骨」とは言わず「第7頚椎」と呼ぶことが一般的です(「椎」という漢字自体に「骨」という意味があります)。極めて大まかな表現になりますが、頚椎とは「首の骨である」というのがイメージとして一番分かりやすいのではないでしょうか。

 頚椎は英訳すると「cervical spine」となります。ですので、医療実務では「C」で表示し、第一頚椎を「C1」第七頚椎を「C7」と言うように「C」をつけて呼びます。

外傷性頚部症候群の神経症状とは

 むち打ちは「外傷性頚部症候群」の他「頚椎捻挫」とも言われます。つまり、端的に言えば、むち打ちは「首の捻挫」であると言えます。
 しかし、足首をぐねって捻挫した場合、その痛みは主に足首のみに生じますが、首は多くの末梢神経が枝分かれして出て行く所になりますので、首以外にも影響が及び得ます。
 ここに、むち打ちの神経症状を検討する意義があると言えるでしょう。

 実際に多い外傷性頚部症候群の神経症状とは、左右いずれかの頚部、肩、上肢から手指にかけての痺れです。
 痺れといっても、14級9号のレベルであれば、それほど深刻なものではありません。重だるい感覚であったり、軽い痛みであったり、感じ方や表現方法は人それぞれに違いがあります。
 ですので、相談時には言葉を変えて質問を重ね、被害者様の自覚症状を見落とすことのないよう留意しています。

神経症状のポイント

 外傷性頚部症候群で注目すべきポイントは、主にC5/6、C6/7の神経根の圧迫による神経症状です。
 脊髄から枝分かれをしたC5/6、C6/7の左右2本の神経根は、左右の上肢を支配しているからです。
 C5/6右神経根が圧迫を受けると、右手の親指と人差し指に、C6/7では、薬指と小指に痺れが出現すると言われています(但し、個人差はあります)。

 X線やCT(コンピュータ断層撮影)は骨を見るためのもので、神経根が確認できるのは、MRI(磁気共鳴画像診断装置)だけです。
頚椎で神経根が圧迫されている様子を図示しています。
 受傷後に撮影したMRIで、C5/6/7の神経根の通り道が狭まっていたり、明確に圧迫を受けていることが確認できたときは、自覚症状に一致した画像所見が得られたことになります。
 他覚所見の得られにくいむち打ちでMRIと自覚症状の整合性が得られれば、後遺障害認定の際の判断材料にすることができます。
 ですので、当事務所では、できるだけ早期に、具体的には2ヶ月以内にMRIの撮影を受けて頂くようアドバイスしています。

まとめ

 むち打ちによる損傷部位はレントゲンで特定しづらいものです。足を捻挫した際に「骨に異常はないから捻挫でしょう」と言われるのと同じロジックですね。
 しかし、首は末梢神経が枝分かれしていく重要な部位ですので、捻挫によって神経根が圧迫されている可能性があります。神経根が圧迫される代表的な症状は、腕から手指にかけての痺れです。
 そのような神経症状がある場合、神経根が圧迫されているかを確認する最も効果的な方法はMRIで患部を撮影することです。
 MRIで神経根の圧迫が確認できれば、自覚症状との整合性を得ることができ、万が一後遺障害が残った時の有力な判断資料となります。

 とはいえ、交通事故は二つとして同じ事故はなく、それぞれに発生状況が異なっています。ですので、インターネットの情報を形式的に当てはめて考えるのではなく、実情に合わせて最善の方法を考えていく必要があります。
 当事務所では、交通事故被害者様のご相談については、初回無料で対応しておりますので、どうぞお気軽にご相談くださいませ。

外傷性頚部症候群による後遺障害

 本稿では、交通事故によるお怪我で最も多い症状である「むち打ち」、診断名で言う「頚椎捻挫」「外傷性頚部症候群」について検討します。

  • むち打ちで後遺障害が認定されるには、一定の要件がある。
  • 首の運動制限は、後遺障害の対象とならない。
  • 受傷からの一貫性が大切である。

頚椎の構造とむち打ちのメカニズム

 むち打ちでは、診断名として「頚椎捻挫」という言葉が使われます。頚椎は、合計24個の椎骨で構成されている脊椎のうちの、首の部分を言い表しています。脊椎とは、おおよそ背骨のことをいい、多くの椎骨が椎間板というクッションをはさんで、首からお尻までつながったものです。椎骨の空洞部分を脊髄などの神経が走行しています。24個の内訳は頚椎が7個、胸椎が12個、腰椎が5個で、さらに仙椎、尾椎からなって全体で脊柱を構成しています。
 頚椎には、それぞれ左右に関節包につつまれた椎間関節があり、椎間板や靱帯や筋肉で連結されています。
 追突などの交通事故受傷により、頚椎が過伸展・過屈曲状態となり、これらの関節包、椎間板、靱帯、筋肉などの一部が引き伸ばされ、あるいは断裂して、頚椎捻挫を発症します。
頚椎のメカニズム
 頚椎は7つの椎骨が椎間板を挟んで連なっており、頚部の可動域を確保しています。
 上位で頭蓋骨につながっている部位を環椎、その下を軸椎と呼び、この組み合わせ部分が、最も大きな可動域を有しています。
 椎間板、脊椎を縦に貫く前縦靭帯と後縦靭帯、椎間関節、筋肉などで椎骨はつながれています。
 椎骨の脊髄が走行する部分を椎孔といい、椎孔がトンネル状に並んでいるのを脊柱管と呼びます。
 脊髄から枝分かれした神経根はそれぞれの椎骨の間の椎間孔と呼ばれる部分を通過し、身体各部を支配しています。

むち打ちと後遺障害認定

 損保料率機構調査事務所では、外傷性頚部症候群の14級9号の後遺障害認定要件として以下の基準を用いていると考えられています。

「外傷性頚部症候群に起因する症状が、神経学的検査所見や画像所見から証明することはできないが、受傷時の状態や治療の経過などから連続性、一貫性が認められ、説明可能な症状であり、単なる故意の誇張ではないと医学的に推定されるもの。」

 以下、この要件を詳細に検討していきましょう。

受傷時の状態について

 受傷時の状態とは、受傷機転、事故発生状況のことを意味していると考えられます。受傷時の状態が審査の対象になるということは、事故の大きさが関係していることを示唆しています。物損の損害額が軽微な事故であれば、後遺障害が認定されることは難しいと言えます。物損の額については一概に数値化できるものではありませんが、バンパーの交換程度では、後遺障害が認められる可能性は高くないでしょう。
 相談時には、「物損の修理費用をお教えください」と確認しております。
 なお、歩行者や自転車、バイクVS車の衝突では、この限りではありません。

自覚症状について

 受傷時の状態に関連して、自覚症状も重要なポイントになります。
 事故直後は当然、首そのものが痛むことでしょう。しかし、それから数ヶ月経過してもなお首が痛む場合であっても、その首のみの痛み自体や首が曲がりづらくなったという運動制限は、後遺障害に認定され得る症状とは言えません。
 また、事故から数か月を経過して発症したものは、事故によるものではないと判断されます。
 むち打ちでは、外傷性の所見が得られないことが一般的ですので、後遺障害としては、神経症状の残すものとして14級9号が認められることになります。ただ、むち打ちでは明確な「神経症状」というよりは「何か違和感を感じる」と言った感覚も少なくありません。
 そこで、事故直後から、左右いずれかの頚部、肩、上肢~手指にかけて、重さ感、だるさ感、しびれ感が出現していたか等、言葉を変えながら症状の受け止め方を拡大してお尋ねするよう配慮しており、被害者様のサインを見逃さないよう留意しています。

治療経過について

 治療の経過とは、その言葉通り、どこで、どのくらいの頻度で、どのような治療を行ったかということです。
 事故直後から、左右いずれかの頚部、肩、上肢~手指にかけて、重さ感、だるさ感、しびれ感の神経症状を訴えて、その治療とリハビリのために継続的に通院していることが大切です。
 通院先については、整形外科にかかるべきであり、施術しかできない整骨院に偏重した通院では、治療実績として評価されないのではないかという懸念があります。
 また、回数については一概に申し上げられませんが、痛ければ頻繁に通院しているはずであり、少なくとも週に2回以上は通院していることが望ましいと言えるでしょう。
 仕事等がお忙しかったとしても、週に1回程度の通院を半年続けた程度では、後遺障害として認められる可能性は高くありません。後遺障害とは、完治を目指して懸命に治療を継続してなお残存したお身体の不具合なのだ、というのが自賠責保険における後遺障害の大前提であることを忘れてはなりません。

単なる故意の誇張ではないと医学的に推定可能なこと

 単なる故意の誇張ではないとは、被害者の常識性と信憑性が見られていると考えられます。
 たとえば、賠償志向が強く、発言が過激で症状の訴えが大袈裟など、相手方の保険会社が非常識と判断した被害者では、後遺障害は非該当とされる傾向にあるようです。

まとめ

 これらをまとめ、認定要件に当てはめて換言してみましょう。

「外傷性頚部症候群に起因する症状が、神経学的検査所見や画像所見などから証明することはできないとしても、痛みやしびれを生じさせるような事故受傷であり、当初から自覚症状があり、その原因を突き止めるために医師の診察・治療を受け、MRIの撮影も受けている。
その後も、痛みや痺れが継続していることが通院先や通院実日数から推測ができるところから、事故から現在までを総合して考えるのであれば、これは、後遺障害として認めるべきであろう。」

 調査事務所が、このように判断したときは、14級9号が認定されている、と言えるでしょう。
 当事務所では、これらの要件を詳細に検討する必要から、受傷直後からの対応を重視して取り組んでいます。