上腕骨骨幹部骨折

 上腕部、長管骨の中央部付近の骨折を骨幹部骨折と言います。
 交通事故では、バイクの転倒で手や肘をついたとき、転落などで直接に上腕の中央部に外力が加わって発生しています。
上腕骨骨幹部骨折
 このような直達外力で骨折したときは、横骨折が多く、外力が大きいと粉砕骨折になります。
 手をついて倒れたときは、螺旋骨折や斜骨折となります。
 関節部に遠く、一般的に関節の機能障害を伴わないことが大半ですが、上腕骨骨幹部骨折では、橈骨神経麻痺を合併することが高頻度であり、要注意です。
 橈骨神経は上腕骨々幹部を螺旋状に回っているので、骨片により圧迫を受けて、麻痺が発生しやすく、骨折部にはれ、痛み、皮下出血、変形、圧痛、異常な動きが現れます。

上腕骨骨幹部骨折2
 骨折部の上下の筋肉の力で骨片はずれて短縮します。
 橈骨神経麻痺が起こると、下垂手といって手首や指が伸ばせなくなります。
 さらに、腕を回旋して手のひらを上へ向ける回外運動もできなくなります。
 XP撮影で骨折の位置と骨折型を確認すれば診断は容易、同時に、神経麻痺の有無も調べます。
上腕骨骨幹部骨折3

 治療は、観血術によらない保存療法が原則です。
 完全骨折でずれがあるときは、吊り下げギプス法といってギプスを骨折部のやや上から肘を90°にして手まで巻き、包帯を手首に付けて首から吊るします。
 神経麻痺は一過性で回復を期待できることが多く、まず骨折を保存的に治療しつつ回復を待ちます。
 回復の状況は針筋電図や神経伝導速度などの検査を行って検証します。

 橈骨神経麻痺について、もう少し掘り下げます。
 恋人を腕枕にして眠り、夜中に腕が痺れて目が醒めることがあるそうです。
 これが一過性の橈骨神経麻痺なのですが、覚えがありますか?
 欧米では、この麻痺のことをSaturday night palsy、土曜の夜の麻痺と呼んでいるのです。

 橈骨神経は頚椎から鎖骨の下を走行し、腋の下を通過して、上腕骨の外側をぐるりと回り、外側から前腕の筋肉、伸筋に通じています。
 橈骨神経は手の甲の皮膚感覚を伝える神経なのです。

 橈骨神経の障害が起こる部位は、3つ、腋の下、Saturday night palsyの原因となる上腕骨中央部、前腕部です。交通事故では、上腕骨骨幹部骨折、上腕骨顆上骨折、Monteggia骨折等で発症しており、上腕中央部の麻痺が多いのが特徴です。
 症状としては、手の掌は何ともないのに手の甲が痺れます。
 特に、手の甲の親指・人差し指間が強烈に痺れるのです。
 手首を反らす筋肉が正常に働かないので、手関節の背屈ができなくなり、親指と人差し指で物をうまくつまめなくなり、手は、下垂手=drop hand変形をきたします。
上腕骨骨幹部骨折4
 橈骨神経の支配領域は、親指~薬指の手の甲側なので、この部位の感覚を失います。
上腕骨骨幹部骨折5
 診断は、上記の症状による診断や、チネル徴候などのテストに加え、誘発筋電図も有効な検査です。
 患部を打腱器で叩き、その先の手や足に電気が走ったような痛みを発症するかどうかの神経学的検査法をTinel徴候、チネルサインと呼んでいます。

 治療ですが、圧迫による神経麻痺であれば自然に回復していきます。
 手首や手指の関節の拘縮を防止する観点からリハビリでストレッチ運動を行います。
 カックアップやトーマス型の装具の装用や低周波刺激、ビタミンB12の投与が行われます。

上腕骨骨幹部骨折6カックアップ装具

 

上腕骨骨幹部骨折7 トーマス型装具

 

 稀には、末梢神経が骨折部で完全に断裂していることがあります。
 断裂では、知覚と運動は完全麻痺状態となり、観血術で神経を縫合することになります。
 手術用の顕微鏡を使用し、細い神経索を縫合していくのですから、手の専門外来のある病院で手術を受けることになりますが、予後は不良です。
 
上腕骨骨幹部骨折における後遺障害のキモ

  1. 粉砕骨折では、偽関節で8級8号を経験しています。
  2.  また、保存療法では、上腕骨の変形で12級8号も経験しています。
     しかし、一般的な横骨折では、偽関節や肩、肘の機能障害は考えられません。
     骨折の形状と骨癒合を検証しなければなりませんが、後遺障害を残す可能性は低い部位です。

  3. 橈骨神経の断裂による橈骨神経麻痺が認められるときは、神経縫合術よりも、症状固定として後遺障害を申請することを優先しなければなりません。
  4.  なぜなら、神経縫合術で完全治癒が期待されないからです。
     完全な下垂手では、足部の腓骨神経麻痺と同じで、手関節の背屈と掌屈が不能となり、8級6号が認定されます。不完全な下垂手でも、10級10号が期待されます。

 
 完全な下垂手が、神経縫合術で不完全な下垂手に改善、10級10号となっても、日常生活の支障に大きな違いはなく、損害賠償金だけが薄められた結果を迎えます。
 ここが最大のキモですが、橈骨神経の完全断裂は、極めて少ないことも事実です。

上腕骨近位端骨折

上腕骨近位端骨折

上腕骨近位端骨折2
 上腕とは、肩関節からぶら下がる二の腕のことで、上腕骨近位端とは、肩関節近くの部分です。
 上腕骨近位端骨折は、骨折の部位と骨片の数で、重傷度や予後、治療法が決まります。
 上記のイラストは、骨折の部位と骨片の数による分類を示しています。
 臨床上、この骨折は、骨頭、大結節、小結節、骨幹部の4つに区分されています。
上腕骨近位端骨折3
 交通事故では、肩を地面に打ちつけることで発症しています。
 高齢者では転倒などの軽い外力により、手をついただけで骨折に至ることが多く、上腕骨近位端骨折は、股関節部の大腿骨近位端骨折、手関節部の橈骨遠位端骨折、脊椎圧迫骨折と並び、高齢者に多い骨折の一つで、その背景には、骨粗しょう症の存在があります。

上腕骨近位端骨折4
 上腕骨の大結節、小結節は、上腕骨骨頭部で肩関節を構成している部分ですが、右前面図で説明すると、上部左側の小さな盛り上がりが小結節、左上部の大きな盛り上がりが大結節です。
上腕骨近位端骨折5
 左は上腕骨が肩甲骨の関節窩に衝突、大結節が骨折したもの、右は、大結節が肩峰に衝突、骨折したもの、
上腕骨近位端骨折6
 棘上筋の牽引により大結節が剥離骨折したもの、

 骨頭でズレのない場合は、3週間の三角巾固定で十分です。
 転位が認められるときは、X線透視下に徒手整復を実施、4週間のギプス固定を行います。
 脱臼を整復すれば骨折も整復されることが多いのです。

 大結節では、転位が軽度でも肩関節の炎症を起こしやすく、経皮的にKワイヤーやラッシュピンで固定するのが主流です。

 小結節、骨幹部では、いずれも観血的整復固定術の適用です。
 髄内釘やプレート固定が実施されます。
 症状固定時期は、常識的には、高齢者であっても受傷から6ヵ月で決断します。
 後遺障害は肩関節の機能障害で、12級6号、10級10号の選択となります。

 小結節、骨幹部で転位の大きいものは、骨頭壊死を発症する可能性が高く、上腕骨頭が壊死すれば、人工骨頭置換術が行われます。
 骨粗しょう症の進んだ高齢者では、高頻度に壊死が懸念されるのです。
 最近、同部位を粉砕骨折した高齢者女性で、人工骨頭置換術を経験、10級10号が認定されました。
 
上腕骨近位端骨折における後遺障害のキモ

  1. 上腕骨近位端骨折では、肩関節の機能障害、つまり可動域制限と骨折部の疼痛が後遺障害の対象となります。
  2. 部位主要運動参考運動
    肩関節 屈曲 外転 内転 合計伸展外旋内旋
    正常値180 °180 °0 °360 °50 °60 °80 °
    8 級 6 号20 °20 °0 °40 °
    10 級 10 号90 °90 °0 °180 °25 °30 °40 °
    12 級 6 号135 °135 °0 °270 °40 °45 °60 °

     認定される等級は、機能障害においては、8級6号、10級10号、12級6号から、痛みの神経症状では、12級13号、14級9号からの選択です。
     

  3. 高齢者なら、10級10号が期待できるのか
  4.  それはありません。
     上腕骨頭頚部骨折であっても、グレードの高い骨粗しょう症でない限り、骨癒合は良好に得られます。
     固定後の、リハビリ治療が決め手であり、これを真面目に行えば、2分の1以下の可動域制限を残すことは、ほとんどありません。しかし、正常値の180°まで改善することもありません。
     症状固定時期の選択で12級6号を狙うのが現実的な選択です。
     

  5. 若年者ではどうか
  6.  転位=ズレの認められない骨折では、治癒しますので後遺障害を残すことはありません。

     大結節骨折で、Kワイヤーやラッシュピン、小結節の骨折で、経皮的に髄内釘やプレート固定が実施されたものは、CTの3D撮影で変形骨癒合が立証されていて、なお、症状固定時期を誤らなければ、12級6号、あるいは神経症状で14級9号が認定される可能性があります。
     

  7. 角度だけで等級が決まるのか?
  8.  HPの世界では、2分の1以下なら問題なく10級10号が認定されるとの解説もありますが、可動域制限では、その原因を緻密に立証しなければなりません。
     ポイントは骨癒合であり、この点が、しっかりチェックされています。

 
 損保料率機構調査事務所は、角度だけの10級10号は、「そのような高度な可動域制限が発生するとは考えられない?」として、12級6号もしくは非該当で蹴飛ばしています。
 ともあれ、10級10号の獲得は簡単でないと理解することです。

 このような勘違いを防止するには、早期に当事務所までご相談ください。

肩関節周囲炎

肩関節周囲炎
 治療先発行の診断書に、肩関節周囲炎と記載されていれば、「あなたが訴える肩の痛みは、いわゆる五十肩ですよ?」と烙印が押されたことになります。
 これでは、なんと訴えても、肩の痛みや可動域制限で後遺障害が認定されることはありません。
 なんで、どうして? 五十肩の痛みは、いずれ治癒するからです。

 肩関節周囲炎、いわゆる五十肩は、50代を中心とした中年以降に、肩関節周囲組織の年齢性変化を基盤として明らかな原因なしに発症するもので、肩関節の痛みと運動障害を認める症候群と定義されています。

 肩関節は上腕骨、肩甲骨、鎖骨の3つの骨で支えられており、肩を大きく動かす必要から、肩甲骨関節窩が小さく上腕骨頭のはまりが浅い構造となっています。

 構造的に不安定なところを関節包や発達した腱板などで強度を高めているのですが、そのためか、肩の酷使によって炎症や損傷が起こりやすく、痛み、可動域の制限が起こると考えられています。
 肩関節の炎症は、肩峰下の滑液包や関節周囲の筋肉に広がることがあり、このような肩関節周囲炎を狭義の五十肩と呼んでいるのです。

 
肩関節周囲炎における後遺障害のキモ

 「確かに私は50代ですが、事故以前には肩の痛みを感じることはなかった?」
 「それなのに五十肩で片付けられるのは納得がいかない?」

 こんな気持ちなら、即、行動すべきです。
 スポーツ外来、肩関節外来を設置している医大系の整形外科をネット検索し、受診するのです。
 MRIやエコー検査が実施され、専門医が肩の器質的損傷、つまり、腱板損傷、関節唇損傷や肩関節の後方脱臼を診断すれば、先の不満はたちどころに解消されたことになります。

 堂々と後遺障害を申請することになります。
 真面目な検査と診察が行われたのに原因不明のときは、五十肩でキッパリと諦めることです。

反復性肩関節脱臼

反復性肩関節脱臼
 肩関節は、肩甲骨の浅いソケットに、上腕骨がぶら下がっている頼りなげなもので、関節部には、骨の連結がなく、大きな可動域を有しているのですが、そのことで脱臼しやすい構造となっています。

 10・20代の若年者の外傷性肩関節脱臼では、反復性を予想しておかなければなりません。
 脱臼は、ほとんどが徒手的に整復されますが、若年者では、これを繰り返す、つまり反復性に移行する確率が高いことが注目されています。

 肩関節は、肩甲骨面に吸盤の役割をしている2つの関節唇という軟骨に、靭帯と関節の袋である関節包が付着し、これが上腕骨頭を覆うことによって安定化しています。
 脱臼時に関節唇が肩甲骨面から剝離し、これが治癒しないと、再び脱臼するような力が加わると脱臼を繰り返すことになるのです。
 極端な例では、背伸びの運動でも肩関節が外れるのです。

 

反復性肩関節脱臼における後遺障害のキモ

 関節鏡術が先か、症状固定を先行すべきか?
 反復性肩関節脱臼が認められるとき、損保料率機構調査事務所は、12級6号を認定しています。
 したがって、私は症状固定を先行すべきと考えています。

 近年、整形外科の肩関節外来では、関節鏡術がめざましく発展しており、反復性肩関節脱臼に対しては、モニターを見ながら関節内を十分に観察、剥がれた関節唇を肩甲骨面の元の位置に縫い付けることで、安定した成績を積み上げています。

 鏡視下手術は、3カ所について5~7mmの切開であり、傷跡もほとんど残りません。
 術後の入院も、2、3泊で、術後感染のリスクも、ほとんどありません。
 であれば、症状固定を選択、後遺障害等級を確定、弁護士による損害賠償交渉が完了してから、健康保険適用で治癒を目指すことになります。

 逆のパターンでは、後遺障害は全否定され、悔やんでも悔やみきれない結果を残すことになります。

肩関節脱臼

肩関節脱臼
 肩関節は、肩甲骨の浅いソケットに、上腕骨がぶら下がっている頼りなげなもので、関節部には、骨の連結がなく、大きな可動域を有しているのですが、そのことで脱臼しやすい構造となっています。

 バイクや自転車を運転中の衝突等で、転倒した際に体を支えようとした腕が、横後ろや上方に無理に動かされたときに、上腕骨頭が不安定となり、関節面を滑って脱臼となります。
 また、転倒した際に、肩の外側を強く打ったとき、腕を横後ろに持っていかれたときなどにも生じます。脱臼の多く、90%以上は、上腕骨頭が身体の前面に移動する前方脱臼です。
肩関節脱臼2
 前方脱臼以外にも、転倒した際に、体の前方に腕を突っ張ったとき、肩の前方を強く打撲したときに生じる後方脱臼、上腕を横方向から上に無理に動かされたときに生じる下方脱臼があります。
肩関節脱臼3

 治療では、観血術の選択は少なく、上記の外旋位固定が3週間続けられます。

 

肩関節脱臼における後遺障害のキモ

  1. この傷病名を確認すると、アスリートでなければ、肩関節の機能障害で12級6号を連想します。
     もちろん、ダラダラ通院して症状固定時期を遅らせると、多くは非該当、もしくは肩関節の運動痛で、なんとか滑り込み14級9号となり、泣いても泣ききれない示談解決となります。
    なんとしても、6か月での経過で症状固定を選択しなければなりません。
  2.  

  3. 合併症に注意
     肩関節脱臼となると、若年者では、関節包が肩甲骨側から剥がれ、または破れ、中年以降では、腱板=関節を包む筋肉が上腕骨頭に付いている部位で断裂することがあります。脱臼に伴い、肩・腕・手に行く上腕神経叢が損傷することもあり、中年以降では高率です。
     また、上腕骨頭の外側や前方にある骨の突起=大結節や小結節の骨折をしばしば伴います。

     少ない症例ですが、後方脱臼は、専門医以外では、60%程度が見逃されると言われています。
     したがって、最初の治療先で肩の痛みの原因に対する十分な説明がされず、痛みが持続するときは、見切り千両で、専門医を受診しなければなりません。
     合併症を伴うときは、12級6号の限りではなく、10級10号も予想されます。

     一度外れても簡単にもどる亜脱臼や数分間腕全体がしびれたようになるデッドアーム症候もありますが、本質的には脱臼と同じ損傷ですが、後遺障害を残しません。

  4.  

  5. 立証
     骨と腱板や関節唇の軟部組織における器質的損傷を立証するには、CTとMRI撮影が欠かせません。
     CTでは、関節の安定性を重視する必要から、バンカート部位=肩甲骨関節窩下縁前方、ヒル・サックス部位=上腕骨骨頭後外上部の撮影をお願いしています。

肩腱板断裂

肩腱板断裂
 肩関節は骨同士が軟骨で接する関節面が小さく、腱板と呼ばれるベルトのような組織が上腕骨頭の大部分を覆うようにカバーしています。
 腕を持ち上げるバンザイでは、腱板は肩峰、肩甲骨の最外側や靱帯からなるアーチの下に潜り込む仕組みとなっています。
 アーチと腱板の間には、肩峰下滑液包=SABがあり、クッションの役目を果たしています。

 肩腱板は、肩関節のすぐ外側を囲む、棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の4つの筋肉で構成されていますが、交通事故では、手をついて転倒した衝撃で肩を捻ることが多く、圧倒的に棘上筋腱の損傷もしくは断裂です。
 棘上筋腱は上腕骨頭部に付着しているのですが、付着部の周辺がウィークポイントで、損傷および断裂の好発部位です。

肩腱板断裂(部分断裂と完全断裂)
       部分断裂                 完全断裂

 

 

 腱板の断裂では、激烈な痛みと腫れを生じます。
 肩を他人に動かされたときに、特有な痛みが生じます。
 腕を伸ばし、気をつけの姿勢で、ゆっくり横に腕を上げていくと肩より30°程度上げたところで痛みが消失します。完全断裂のときは、自分で腕を上げることはできず、他人の力でも、疼痛のため肩の高さ以上は上がりません。
 医師は、肩が挙上できるかどうか、肩関節に拘縮があるかどうか、肩を挙上したときに肩峰下に軋轢音があるかどうかをチェックし、棘下筋萎縮や軋轢音があれば腱板断裂と診断しています。
 XPでは、肩峰と上腕骨頭の裂陵が狭くなり、MRIでは骨頭の上方に位置する腱板部に白く映る高信号域が認められます。

 断裂がある場合は、肩関節造影を行うと、肩関節から断裂による造影剤の漏れが認められます。
 エコーやMRIにおいても断裂部を確認することができます。

 腱板は年齢と共に変性するのですが、肩峰と上腕骨頭の間に存在し、常に圧迫を受けています。
 
腱板断裂における後遺障害のキモ

  1. 肩腱板の部分損傷は、若年者であれば、大多数はリハビリ治療で治癒します。
  2.  事故直後は、痛みが強く、肩の可動域は大きく制限されますが、疼痛管理で炎症を押さえ、さらにリハビリで肩の動く範囲を取り戻していくことが大切となります。

  3. 肩腱板の広範囲断裂で、どの姿勢でも痛みが強く、夜間痛で眠れない、腕の運動痛が堪えがたいときは、若年者に対しては、腱板修復術が適用されます。
  4.  ところが、中年以上では、肩関節の拘縮が懸念されるところから安静下で2週間程度の外固定が実施されるのが一般的です。

  5. 肩腱板断裂は、MRIもしくはエコー検査で立証しなければなりません。
  6.  医師が、XP検査で肩峰と上腕骨頭の裂陵が狭小化していることを指摘しても、損保料率機構調査事務所では、腱板損傷や断裂を立証したと判断してくれません。

  7. 症状固定時期は、受傷から6か月を経過した時点です。
  8.  ダラダラと治療を続けると、4分の3+○°で等級は非該当となり、この点、要注意です。

 

 後遺障害等級は、被害者が中年以上であれば、肩関節の機能障害で12級6号が大半です。
 10級10号は、滅多に発生しませんが、腱板の広範囲断裂、肩関節の脱臼、鎖骨の遠位端粉砕骨折等を合併しているときは、この限りではありません。

 外転運動が60°以下に制限、他動値では正常値の180°ですが、自力でその位置を保持することはできず、医師が手を離すと腕は下降、断裂部に疼痛が発生することがあります。
 この状況をdrop arm signと呼ぶのですが、上肢の3大関節中の1関節の用を廃したものとすれば8級6号の後遺障害等級が認められる可能性があります。

胸鎖関節脱臼

  • 交通事故のお怪我としては事例は多くない。
  • 後遺障害は、変形障害が中心的な論点となる。

胸鎖関節解剖図
 胸鎖関節脱臼というのは、ご相談としては稀な事案であると言えます。
 胸鎖関節は、鎖骨近位端が胸骨と接する部分で、肩鎖関節の反対に位置しています。

 胸鎖関節は、衝突などで、肩や腕が後ろ方向に引っ張られた際に、鎖骨近位端が、第1肋骨を支点として前方に脱臼すると言われています。これは、いわば肩からの介達外力によって脱臼するケースですが、前方から直接的な外力を受けた場合も当然脱臼することが考えられます。

胸鎖関節脱臼の検査

 検査は単純X線検査によって行われるのが一般的のようです。

胸鎖関節脱臼による後遺障害

鎖骨近位端の変形

胸鎖関節の突出部
 まず、鎖骨の変形が立証できれば、12級5号が認定され得ます。胸鎖関節脱臼で鎖骨が突出するのは、○印の部分です。
 次に問題となるのが肩関節の運動制限です。

1)肩関節の可動域

 肩関節の外転運動における正常値は180°です。ですので、患側の可動域が135°以下であれば、12級6号が認定される可能性があります。
 しかし、胸に近い側で脱臼しているのに肩関節に運動制限を残すというのは、整合性として疑問が生じる可能性もあります。このため、運動制限については後遺障害として相当であることを立証して示す必要が生じます。

2)肩関節から最も離れた部分の脱臼で、何故肩関節に機能障害を残すのか?

 肩関節は、上腕骨頭が肩甲関節に遠慮がちに寄り添う構造です。
 肩甲骨は、鎖骨にぶら下がっている形状で、胸郭=肋骨の一部に乗っかっています。
つまり、肩鎖関節と胸鎖関節、肩甲骨の胸郭付着部は3本の脚立の脚となっているのです。
 胸鎖関節の脱臼により脚立の脚が1本ぐらつき、それを理由として、胸鎖関節から最も遠い位置の肩関節に機能障害が発生するというのは、可能性としてあり得ることでしょう。
 従って、ご相談当初から症状がみられる場合には、右鎖骨全体のCTを実施し、3Dで右鎖骨の走行に変化が生じているかどうか確認するようアドバイスしております。

 但し、受傷の状態によっては、腱板損傷が疑われる場合もあります。交通事故には一つとして同じケースがなく、事故状況や受傷の程度によって医師の理解を得ながら原因を突き止めていく必要があります。

肩鎖関節脱臼と後遺障害

  • 肩鎖関節脱臼で後遺障害が認定されるためには、裸体での変形を証明する必要がある。
  • 肩関節の運動制限を伴う場合は、靱帯損傷を疑い、MRI撮影を視野にいれる必要もあろう。

肩鎖関節解剖図

肩鎖関節脱臼のグレード
Ⅰ捻挫肩鎖靱帯の部分損傷、烏口鎖骨靱帯、三角筋・僧帽筋は正常、
XPでは、異常は認められません。
Ⅱ亜脱臼肩鎖靱帯が断裂、烏口鎖骨靱帯は部分損傷、三角筋・僧帽筋は正常です。
XPでは、関節の隙間が拡大し鎖骨遠位端が少し上にずれています。
Ⅲ脱臼肩鎖靱帯、烏口鎖骨靱帯ともに断裂、三角筋・僧帽筋は鎖骨の端から外れていることが多く、XPでは、鎖骨遠位端が完全に上にずれています。
Ⅳ後方脱臼肩鎖靱帯、烏口鎖骨靱帯ともに断裂、三角筋・僧帽筋は鎖骨の端から外れている。
鎖骨遠位端が後ろにずれている脱臼です。
Ⅴ高度脱臼Ⅲ型の程度の強いもの、肩鎖靱帯、烏口鎖骨靱帯ともに断裂、三角筋・僧帽筋は鎖骨の外側1/3より完全に外れています。
Ⅵ下方脱臼鎖骨遠位端が下にずれる、極めて稀な脱臼です。

 肩鎖関節とは鎖骨と肩甲骨の間にある関節のことです。
 肩鎖関節脱臼をは、肩鎖靭帯・烏口鎖骨靭帯の損傷の程度や鎖骨のずれの程度等に応じて、上記の6つのグレードに分類されることが一般的です(ロックウッドの分類)。
 大多数はグレードⅢ未満で、グレードⅥは、滅多に発生しないと言われています。
 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲでは、主として保存療法が、Ⅳ・Ⅴ・Ⅵでは観血術による固定が選択されていますが、最終的には医師の方針と患者様の同意によるべきことは言うまでもありません。

肩鎖関節脱臼による後遺障害

1.グレードⅠの捻挫では、後遺障害を残しません。

2.グレードⅡ・Ⅲでは、外見上、鎖骨が突出し、ピアノキーサインが陽性となります。ピアノキーサインとは、鎖骨の端を上から指で押し込んで、その指を離すとピアノの腱盤のように突き上がってる兆候です。

ピアノキーサイン
 裸体で変形が確認できれば、体幹骨の変形として12級5号が認められます。
 あくまでも外見上の変形であり、XP撮影により初めて分かる程度のものは非該当です。
 ピアノキーサインが陽性のときは、男性は上半身裸、女性ならビキニ姿で、外見上の変形を写真撮影し、後遺障害診断書に添付することになります。。

 また、鎖骨の変形と同じですが、「骨折部に運動痛があるか、ないか」が重要なポイントになります。体幹骨の変形による12級5号では、骨折部の疼痛も周辺症状として含まれてしまいます。
 つまり、疼痛の神経症状で12級13号が認定され、併合11級となることはないのです。

 なんの痛みもなければ、変形で12級5号が認定されても、逸失利益のカウントはありません。しかし、運動痛が認められていれば、10年程度の逸利益が期待できます。
 変形に伴う痛みは、自覚症状以外に、鎖骨骨折部のCT、3D撮影で立証しています。

 なお、変形が認められなくても、肩鎖関節部の痛みで14級9号が認定されることもあります。

3.肩鎖関節部の靱帯損傷や変形により、肩関節の可動域に影響を与えることが予想されます。

 こうなると、鎖骨の変形以外に、肩関節の機能障害が後遺障害の対象となります。となれば、骨折部位の変形をCT、3D、靱帯断裂はMRIで立証しなければなりません。

 患側の関節可動域が健側の関節可動域の2分の1以下とは、手が肩の位置辺りまでしか上がらないイメージで10級10号が、患側の関節可動域が健側の関節可動域の4分の3以下とは、手が肩の位置よりは上がるけれど、上までは上がらないイメージで12級6号が認定されます。可動域は、鎖骨骨折を参考にしてください。

症状と後遺障害等級のまとめ

等級症状固定時の症状
10級10号患側の可動域が健側の2分の1以下となったもの
12級6号患側の可動域が健側の4分の3以下となったもの
  
12級5号鎖骨に変形を残すもの
  
14級9号脱臼部に痛みを残すもの
  
併合9級肩関節の可動域で10級10号+鎖骨の変形で12級5号
併合11級肩関節の可動域で12級6号+鎖骨の変形で12級5号

 肩関節の機能障害と鎖骨の変形障害は併合の対象ですが、鎖骨の変形と痛みは、周辺症状として扱われ、併合の対象にされていません。
 等級が併合されなくとも、痛みがあれば、それは後遺障害診断書に記載を受けなければなりません。

ムチウチの次に多い鎖骨骨折

  • 鎖骨骨折は、むち打ちに次いで多いと言える受傷態様である。
  • 鎖骨の後遺障害認定は、運動痛の有無が大切になる。

鎖骨の構造
 鎖骨骨折は、交通事故でもご相談の多いお怪我です。
 自転車、バイクといった二輪VS自動車の交通事故で、被害者が転倒、手・肘・肩などを打撲したときに、その衝撃が鎖骨に伝わり、鎖骨骨折を発症しています。
 また、追突、出合い頭衝突、正面衝突では、シートベルトの圧迫で鎖骨が骨折することもあります。

鎖骨骨折の受傷部位

 鎖骨の横断面は、中央部から外側に向かって三角形の骨が、薄っぺらく扁平して行きます。
 三角形から扁平に骨が移行する部位が鎖骨のウィークポイントとされており、鎖骨骨折の80%が、その部位で発生していると言われています。この部位は、より肩関節に近いところから、遠位端骨折と呼ばれています。
その次の好発部位は、肩鎖関節部です。肩鎖靱帯が断裂することにより、肩鎖関節は脱臼し、鎖骨は上方に飛び上がります。

鎖骨骨折の検査と治療

 鎖骨骨折のご相談では、単純X線検査によって骨折が確認できる事例がほとんどです。 治療は、ほとんどがオペによらず、固定による保存療法が選択されています。
 胸を張り、肩をできる限り後上方に引くようにして、クラビクルバンドという固定具を装着し固定します。
 一般的には、成人で4~6週間の固定で、骨折部の骨癒合が得られます。

鎖骨骨折の後遺障害認定

 鎖骨の後遺障害認定では、変形障害が主な論点となります。

 鎖骨は体幹骨であり、変形があれば、体幹骨の変形として12級5号の認定が予想されます。
 症状固定時に裸体での変形が確認できれば、認定基準を満たします。

 ところで、鎖骨の変形では、「骨折部に運動痛があるか、ないか」が重要なポイントになります。
 体幹骨の変形による12級5号では、骨折部の疼痛も周辺症状として含まれてしまいます。つまり、疼痛の神経症状で12級13号が認定され、併合11級となることはないのです。
 なんの痛みもなければ、変形で12級5号が認定されても、逸失利益のカウントはありません。しかし、運動痛が認められていれば、10年程度の逸失利益が期待できます。
 変形に伴う痛みは、鎖骨骨折部のCT、3D撮影で骨癒合状況を明らかにして、立証しています。

肩関節機能障害

 また、鎖骨の遠位端骨折部の変形により、肩関節の可動域に影響を与えることが予想されます。こうなると、鎖骨の変形以外に、肩関節の機能障害が後遺障害の対象となります。となれば、骨折部位の変形をCT、3Dで立証しなければなりません。
 左右差で可動域が4分の3以下であれば、12級6号が認定され、先の変形による12級5号と併合となって併合11級が認定されることになります。

肩関節の屈曲
肩関節の外転
部位主要運動参考運動
肩関節 屈曲 外転 内転 合計伸展外旋内旋
正常値180 °180 °0 °360 °50 °60 °80 °
8 級 6 号20 °20 °0 °40 °
10 級 10 号90 °90 °0 °180 °25 °30 °40 °
12 級 6 号135 °135 °0 °270 °40 °45 °60 °

 主要運動が複数ある肩関節の機能障害については、屈曲と、外転+内転のいずれか一方の主要運動の可動域が、健側の2分の1以下に制限されているときは、肩関節の機能に著しい障害を残すものとして10級10号、同じく、4分の3以下に制限されているときは、肩関節の機能に障害を残すものとして12級6号が認定されています。
 屈曲と、外転+内転が、切り離して認定されていることに注目してください。

肩関節の構造

 肩のお怪我は、交通事故で頻繁にご相談頂く部位と言えます。自動車に乗車中のお怪我で、シートベルトを締めている場合はあまり痛められることはないようですが、二輪や歩行中の事故では肩の痛み、可動域制限がしばしば問題になります。

 本稿では、肩関節の交通事故後遺障害を考える上で必要となる構造について検討します。

  • 肩関節は自由度が高いが故に不安定である。
  • 不安定であるが故に、外傷に弱い部位であるとも言える。
肩関節の解剖図1
肩関節の解剖図2

 上図のように骨だけで肩関節を見ると、丸い上腕骨頭が肩甲骨の窪みにひっついているだけで、肩甲骨は、鎖骨につり下げられるように連結し、頼りなげな構造となっています。
 このように単純な構造になっているが故に、肩関節は、上肢に自由度の高い運動範囲を与えている一方、極めて不安定であり、外傷の衝撃により、骨折や脱臼を起こしやすい部位であると言えるでしょう。

 こういった不安定性を補う必要から、肩関節は、関節唇・関節包や腱板によって補強されています。骨と骨を繋ぎとめる役割は主に靱帯が果たしますが、自由に動くようにするため、靱帯で強く結合しているという感じではありません。
 上方には、烏口肩峰靱帯があり、上方の受け皿となり、滑液包が潤滑の役割を担っています。
 関節包は余裕を持たせる一方で、局部的に肥厚し安定性を高めています。

三角筋と大胸筋

三角筋と大胸筋
 肩関節は、三角筋と大胸筋の大きな筋肉で覆われています。
 三角筋は、肩関節を屈曲・伸展、外転、水平内転・水平外転させる作用があり、大胸筋は、肩関節の水平内転、初期段階の屈曲、内転、内旋動作などに関与しています。

肩関節に関する後遺障害を検討します

 このセクションでは、ムチウチに次いで多発している鎖骨骨折について、遠位端骨折、肩鎖関節脱臼、胸鎖関節脱臼の3つの外傷と後遺症について検討します。
 さらに、肩腱板断裂、肩関節の脱臼、反復性肩関節脱臼、肩関節周囲炎、上腕骨近位端骨折、上腕骨骨幹部骨折になど、肩関節周辺で発生している全ての傷病名と後遺障害についても考えてまいります。