手根骨の骨折 TFCC損傷

手根骨の骨折 TFCC損傷

 TFCC  Triangular Fibrocartilage Complex 三角線維軟骨複合体は、手関節の小指側、橈骨・尺骨・手根骨の間に囲まれた三角形の部分にあり、橈尺骨のスタビライザーの役目、回内・回外時の尺骨遠位端のクッションやベアリングとして働いています。
 TFCCは、関節円板といわれるもので、骨では硬すぎるので、成分は、三角線維軟骨複合体、膝の半月版に相当する軟骨組織です。
 交通事故で転倒した際に、手をつくことで多発しています。

 覚えることはありませんが、TFCCは、尺骨三角骨靭帯、尺骨月状骨靭帯、掌側橈尺靭帯、背側橈尺靭帯、関節円板、尺側側副靱帯、三角靱帯の複合体です。

 現在では、専門医であれば、治療法は確立されています。
 TFCC 損傷と診断されたときは、受傷直後は、安静、消炎鎮痛剤の投与、サポーターやギブスなどを用いて手関節を保存的に治療します。
 この治療で70%の被害者に改善が得られています。
 サポーターやギブスによる固定療法は、原則として3カ月であり、3カ月が過ぎても症状が改善されないときは、手術が適用されています。

 多くは、関節鏡視下手術により、損傷等した靱帯やTFCCの縫合・再建術や滑膜切除術が実施されていますが、TFCCの損傷レベルによっては、切開手術となります。
 尺骨突き上げ症候群によりTFCCを損傷しているときは、尺骨を橈骨と同じ高さにする尺骨短縮術が行われており、これは、切開手術です。

 高齢者では、TFCC が摩耗しているために、手術が不可能なこともあります。
 手関節にステロイド注射を行う治療法もありますが、関節内にステロイドを注入すると軟骨を痛めることがあり、MRI で十分に評価をした上で注入されています。
 
TFCC損傷における後遺障害のキモ

手根骨の骨折 TFCC損傷2

  1. サラッと流してきましたが、事故直後にTFCC損傷と診断され、サポーターやギブス固定、さらには
    関節鏡視下手術により改善が得られる被害者は、現実問題として一握りです。
  2.  TFCCは三角線維軟骨複合体であり、XPで確認できません。
     TFCC損傷以外に、頚部捻挫があれば、上肢~手指のだるさ、痺れ、痛みを訴える被害者もいます。
    「もう少し、様子を見ましょう」 で、流されてしまう可能性があるのです。

    手根骨の骨折 TFCC損傷4
     

  3. しばらく様子を見ていても、改善されず、痛みと手関節の可動域制限、握力の低下を訴えて、ご相談に来られます。
  4.  注目するのは、受傷直後から小指側の手首の痛み、手関節の可動域制限、握力低下を主治医に訴えていたのか? この点です。
     これらの自覚症状がカルテに記載されていれば、TFCC損傷を立証すれば、間に合います。
     記載がなくても、2か月であれば、主治医も修正に応じてくれる可能性があります。
     しかし、4か月以上が経過していれば、もう、なんと主張しても、全滅です。

     最近も、名古屋地裁でTFCC損傷と交通事故の因果関係が否定されました。
     初診から4か月通院した整形外科の医師が、頑としてTFCC損傷を否定したからです。
     損保料率算出機構調査事務所も、因果関係で非該当としています。
     被害者の強い要望で訴訟提起したのですが、せっかく立証しても、挫折感が大きく落ち込んでいます。
     

  5. TFCC損傷が疑診される被害者は、受傷2か月以内に受診してください。
  6.  専門医が卓越した技術で手術をするにしても、受傷から5、6か月を経過すれば、損傷は陳旧化しており、劇的な改善は得られません。

     残念ですが、症状固定を選択し、手関節の可動域制限で12級6号を確定させます。
     示談締結後、仕事上で大きな支障が認められるときは、健保適用で手術を受けることになります。
     可動域制限は改善しますが、痛みの軽減はありません。

手根骨骨折の総括

手根骨骨折の総括

 交通事故における手の外傷は、高頻度で発生していますが、疼痛、変形、腫れなどの症状が軽いと診察されたときは、捻挫、打撲、挫傷などと断定、放置されるか、十分な治療が行われていません。
 脱臼、亜脱臼であっても、整復が完了すると、その後のフォローもなく、放置されることが多いのです。

 
手根骨骨折における後遺障害のキモ

  1. よく目にする3つのパターン
    •  救急搬送された治療先で、手の専門医が診察したときは、先の異常を見逃すことはありません。
       的確な画像検査で、骨折、脱臼、靱帯損傷が発見され、手術等、タイムリーな治療が開始されます。
       となると、大きな後遺障害は期待できません。
       しかし、劇的な改善で早期の社会復帰が実現できたのですから、これはこれで理想的な解決です。
       でも、これは、ゴクゴク少数例なのです。
    •  手の痛みを訴えても、もう少し様子を見ましょうと、主治医から相手にされないとき、被害者のとるべき行動は、「専門医を受診する」ということです。
       これを、受傷から2か月以内に実行する被害者は、適切な治療が実施され、大きな後遺障害を残すことなく、早期社会復帰が実現できるのです。
    •  1番よくないのが、ダラダラと意味のない治療を続け、保険会社から治療の打ち切りを打診された頃に、モゾモゾ動き出すことです。
       この段階で骨折が発見されても、損保料率機構調査事務所は、被害者に対して、本件事故との因果関係の立証を求めることになり、立証ができなければ、非該当になるのです。

     

  2. 分からないときは、早期に、当事務所にご相談ください。
  3.  

  4. 被害者の目指すべきは、早期社会復帰です。
  5.  交通事故では、予想を上回る衝撃を受けた結果、不可逆的な損傷を被ることがあります。
     早期に専門医を受診しても、全員が後遺障害もなく治癒するのではありません。
     ときには、後遺障害により、その後の社会生活で重大な支障を残すこともあります。
     しかし、治療先の選択が正しければ、納得のできる治療と早期の社会復帰が実現できるのです。

     怪我をしたことは、加害者の不注意であったとしても、治すのは被害者の責任であることを忘れてはなりません。

手根骨の骨折 手根不安定症(しゅこんふあんていしょう)

手根骨の骨折 手根不安定症

 手根骨脱臼・骨折に伴う、外傷性の二次性疾患のことです。

 手根骨は2列に配列された8つの小さな骨が関節と靭帯で結合して構成されているのですが、それぞれを連結する靭帯が断裂あるいは弛緩することにより、発症します。
 手関節の可動域制限、運動時痛、握力の低下、有痛性のクリック音等の症状をもたらす一種の症候群を手根不安定症と言います。

 やはり、通常のXPでは見逃されることが多く、専門医によるMRI、各種ストレス撮影や関節造影検査などで立証しなければなりません。
 
 手根不安定症における後遺障害のキモ

 本来の捻挫とは、靭帯、半月板、関節包、腱などの軟部組織の部分的な損傷のことです。
 今でも、XPで骨折や脱臼が認められないものは単なる捻挫の扱いで、治療が軽視されています。

 確かに、数週間の安静、固定で治癒するものが多数であることも事実ですが、不十分な固定、その後の不適切なリハビリにより、部分的な損傷が完全な断裂に発展することや、本当は、完全に断裂していて、手術以外の治療では、改善が得られない見落としも発生しています。

 いずれも、初期に適切な治療が実施されなかったことを理由として、不安定性を残し、痛みや握力の低下などの後遺障害を残したことになります。

 手がジクジク痛み、握力が低下しているときは、受傷から2か月以内に、専門医を受診することです。

手根骨の骨折 三角・月状骨間解離

 手関節の疼痛、可動域制限などがあり、月状骨と三角骨のある尺側部分に圧痛点が見られます。
  XPの舟状・月状骨角は20°以下で手根掌屈変形が認められます。
 XP、手関節正面像では、月状骨三角骨間での両骨間に間隙が存在します。
 月状骨が橈骨の月状骨窩から外れ、尺側に偏位することがあり、これを手根尺側偏位と言います。
 
  後遺障害等級は、手関節の機能障害で12級6号が認定されています。
  当然に、受傷後6か月で症状固定としなければなりません。

 
舟状・月状骨間解離、三角・月状骨間解離における後遺障害のキモ

  1. 通常のXPでは見逃されることが多く、ジクジクした痛みが続くときは、専門医によるMRI、各種ストレス撮影や関節造影検査などで立証しなければなりません。
  2.  

  3. 「主治医に紹介状をお願いする」というのは、オススメできません。主治医をヤブ呼ばわりしていることを意味するからです。
  4.  優秀な整形外科医であれば、診断に自信が持てないときは、知り合いの専門医に対して紹介状を発行、受診を促しています。
     主治医から紹介状が手渡されたのであればともかく、被害者自らが、これをお願いしてはなりません。

     MRIの撮影をお願いするときでも、「お世話になっている弁護士さんに、MRIの画像所見が決め手になるから、先生に撮影をお願いしてくださいと言われています。先生、MRIの撮影依頼を宜しくお願いします。」
     こう言えるのは、賢い被害者です。

    「先生、MRIの撮影をしてください!」これを聞いた医師は、カチンと来るのです。
     なぜなら、その必要性を判断するのは医師の仕事であるからです。
     ものは言い様で決まるのですから、賢い被害者を演じなければなりません。
     

  5. 「治療費が心配で、保険会社に任意一括を依頼する」 というのが必ずしもいいとは限りません。保険会社に治療費を支払ってもらい、治療費の心配をしなくてもいいというのが一番です。
  6.  しかし、保険会社はあくまで、ビジネスとしてあなたに対応しているだけであり、あなたの立場に立って、色々考えているのではないのです。
     保険会社の対応がよろしくない場合には、健保の適用で、30%を自己負担とし、受診していかなければなりません。

手根骨の骨折 舟状・月状骨間解離

手根骨の骨折 .舟状・月状骨間解離

 舟状・月状骨間靭帯が舟状骨の靭帯付着部で断裂して発症します。
 舟状・月状骨角は、正常では30~60°ですが、70°以上となると手根背屈変形、舟状・月状骨間解離となり、XP手関節正面像では、舟状骨と月状骨の間が2mm以上の間隙が認められます。

 治療は、受傷後の早期では、手根骨の配列を整復、Kワイヤーで6週間、その後装具を6週間装着することになり、このレベルでも、職場復帰には、6か月を要します。
 受傷後かなり経過しているときは、舟状骨を周囲の手根骨と固定する手術が実施されます。

手根骨の骨折 月状骨脱臼(げつじょうこつだっきゅう)

手根骨の骨折 月状骨脱臼

 手首の付け根の骨は手根骨と呼ぶのですが、8個の小さな手根骨で構成されています。
 これらの手根骨は2列に並んでおり1列目は親指側から、舟状骨・月状骨・三角骨・豆状骨、2列目は、大菱形骨・小菱形骨・有頭骨・有鉤骨と呼びます。
 これらの手根骨はお互いに関節を作って接しており、複雑な靭帯で結合されています。
 月状骨は、右手の背側では、舟状骨の右隣、有鈎骨の下部に位置しています。

 手根骨脱臼は、月状骨が圧倒的で、月状骨周囲脱臼と呼びます。
 手のひらをついて転倒した際に、月状骨が、有頭骨と橈骨の間に挟まれてはじき出されるように、手のひら側に転位・脱臼します。月状骨と橈骨の位置関係は正常ですが、月状骨とその他の手根骨との関係が異常となり背側に転位するもので、しばしば見逃されるので、注意しなければなりません。
 月状骨周辺の橈骨遠位端骨折、舟状骨骨折を伴うこともあります。

 疼痛、運動制限、圧痛、腫脹を発症、脱臼した月状骨が手根管に圧迫や突出したときは、手根管症候群を生じることがあります。
 単純XPの側面画像で、月状骨が90°回転しているのが分かります。
 徒手整復が治療の中心ですが、整復できないケース、再発予防・手根管症候群予防の必要から、手術を選択、靭帯の縫合なども実施されています。

 近年、手根不安定症の発症を防止する観点から、手根骨間の徒手整復経皮的ピンニング=切開をしないで徒手で転位した手根骨を整復、皮膚の外からワイヤーで固定する方法、観血的靭帯縫合=切開手術で転位した手根骨を整復し、ワイヤーで固定、損傷した靭帯を縫合する方法、これらが積極的に実施されています。
 
月状骨脱臼における後遺障害のキモ

  1. 見逃されることが多いので注意しなければなりません。
  2.  手根骨は8つの骨で構成されており、交通事故では、舟状骨、月状骨、三角骨、豆状骨、有鉤骨、有頭骨で骨折が多発しています。
     手根骨の骨折では、「主治医が見逃してしまう?」 これが共通した問題点です。
     ともかく、2方向のXPでは判断がつかず、そして、主治医がCTやMRIの撮影を決断するほどの強い痛みの訴えがなされないことが、見逃される原因となっています。
     なんども繰り返してきましたが、ジクジクする痛みが軽減することなく続くのであれば、受傷2か月以内に専門医の受診を受けることです。
     

  3. 症状固定はご相談の出会いで決まります。
  4.  受傷2か月目に専門医を受診、傷病名は右舟状骨骨折、右月状骨周囲脱臼であったと仮定します。

     保存的にギプス固定がなされたのですが、右舟状骨はやや偽関節、右月状骨脱臼も少し飛び出しており、骨折部の痛みと右手関節の可動域制限を訴えています。

     

    部位主要運動参考運動
    手関節背屈掌屈合計橈屈尺屈
    40°45°85°10°25°
    70°90°160°25°55°

     
     左右手関節の可動域について、計測を行います。
     右手関節の可動域制限は、健側160°に対して患側が85°2分の1+5°のレベルです。
     ところが、掌屈と参考運動は、右がいずれも2分の1以下。
     右舟状骨は偽関節であり、右月状骨は脱臼が完全に整復されていません。
     認定基準では、「主要運動のいずれかが2分の1+10°であっても、参考運動のいずれかが、2分の1以下に制限されていれば、10級10号を認定する。」と明記されています。
     つまり、この場合10級10号が認定されるのです。

     主治医は、手関節の軟性装具の使用で様子を見よう、専門医は手術を検討されるべきと説明するかと思いますが、症状固定を行うべきです。

 

地裁基準による等級別損害賠償額の比較 (単位 万円)

等級

後遺障害慰謝料逸失利益

合計

10級10号550(200)2048 (1615)

2598(1815)

男性35歳、基礎年収480万円で積算したものです。

(   )は、保険会社が提示した積算です。

手根骨の骨折 舟状骨々折(しゅうじょうこつ)

手根骨の骨折 舟状骨々折
 舟状骨(しゅうじょうこつ)は親指のつけ根に存在しています。
 プロは、親指のつけ根が痛んだら舟状骨骨折、小指のつけ根が痛んだらTFCC損傷を疑います。
 転んで手のひらを強く突くと、手関節を構成する手根骨の一つ、舟状骨が骨折することがあります。
 交通事故では、自転車とバイクの運転者で、数多くを経験しています。

 舟状骨は手関節にある8つの手根骨の1つで親指側にあり、手根骨の中でも重要なものの1つです。
 船底のような彎曲をしているので船のような形の骨ということで舟状骨と呼びます。
 舟状骨は、親指の列にあり、他の指の列とは45°傾斜して存在しています。
 そのため舟状骨の骨折は、通常のXPでは骨折は見えにくく、見逃されることが多いのです。
 XPよりも、CTが診断には有用です。

 舟状骨は血液の流れが悪いため、骨が付きにくい、偽関節になりやすい特徴があります。
 骨折と骨の血行状態を知るには、MRIが役立ちます。
 
舟状骨骨折における後遺障害のキモ

  1. 放置しておくと、因果関係ではねられる?
  2.  症状は、手関節を動かすと痛みが強く、手のひらの親指側を押すと痛みが出現、握力は低下します。
     ところが、耐えられない激痛ではなく、医師に与えるインパクトは弱いのです。
     「しばらく様子を見ましょう?」 専門医でなければスルーされるのが一般的です。

     4、5か月を経過し、手の専門外来を受診、舟状骨骨折と診断されても、損保料率機構調査事務所は、本件事故との因果関係を疑うのです。
     初診時のカルテに、右手打撲などの傷病名がなく、自覚症状の記載もなければ、お手上げです。
     骨折が発見されているのに、因果関係が否定され、非該当とされるのです。

     受傷後、手首の痛みが、なかなかとれないときには、急いで専門医を受診しなければなりません。
    手根骨の骨折 舟状骨々折2
     

  3. 症状固定、手術、どっち?
  4.  受傷直後に手術を受けたものは、6か月後の残存症状で後遺障害を申請することになります。
     骨折部に痛みを残しており、変形骨癒合が確認できれば、14級9号の認定となります。

     さて、一般的には、ギプス固定で保存的に治療が行われます。
     この骨折の固定期間は、6~10週間と長期間となるため、手関節の装具をつけることもあります。
     ところが、保存的に治療しても、XPで骨の吸収が強く、骨片がずれているものは、「偽関節となるので、手術で固定しましょうか?」 こんな議論が湧き上がってくるのです。
     6か月の時点で、12級6号に該当する機能障害を残していれば、後遺障害の申請を優先しています。
     

    地裁基準による等級別損害賠償額の比較 (単位 万円)

    等級

    後遺障害慰謝料逸失利益合計
    14級9号110(40)185 (65)

    295 (105)

    12級6号290(100)947(518)

    1237(618)

    男性35歳、基礎年収480万円で積算したものです。
    (   )は、保険会社が提示した積算です。

     

     

     保険会社なら、105万円、12級6号でも618万円がやっとです。
     弁護士が交渉することにより、14級9号でも295万円、12級6号であれば1237万円となりえます。

     12級6号が予想されるときは、症状固定として、後遺障害を優先しなければなりません。

手根骨の骨折 有頭骨々折

手根骨の骨折 有頭骨々折
 有頭骨とは、中指の中手骨の真下にある手根骨の1つで、右手では有鈎骨の左横に位置しています。
 交通事故では、転倒した際に手をつく、あるいは、直接の打撲で骨折することが多く、自転車やバイクの事故で複数例を経験しています。
 有頭骨の骨折では、手首の可動域制限と運動時の疼痛を残すことが予想されます。
 
有頭骨骨折における後遺障害のキモ

  1. 早期に、画像で立証された確定診断に漕ぎ着けること
  2.  手根骨は8つの骨で構成されているのですが、交通事故では、舟状骨、月状骨、三角骨、豆状骨、有鉤骨、有頭骨で骨折が多発しています。
     これらの複数が骨折・脱臼していることもあります。
     被害者よりは、激痛の訴えがなされることが少なく、XPでは確認しにくいのを特徴としています。

     訴えに乏しく、初診のXPで確認されないまま、3、4カ月が経過すると、その後に骨折が発見されても、損保料率機構調査事務所は本件事故との因果関係を疑い、これを被害者側で立 証できないときは、骨折が認められているのに、非該当となり、泣いても泣ききれない立場に陥ります。

     見逃さないようにするには、早期、受傷2か月以内に、手の外科専門医を探し出して、受診しなければなりません。
     専門医であれば、CT、MRIを駆使し、手根骨の骨折、脱臼の確定診断が可能です。
     参考までに、日本手外科学会のホームページでは、全国の専門医が紹介されています。
    日本手外科学会のホームページ

  3. 近年、手根骨の骨折に対しては、積極的に手術による固定が実施されています。
  4.  しかし、骨折の形状、合併症状から、手術でどこまで改善するのかを検証しておく必要があります。
     固定術を受けた結果、手関節の可動域が背屈60°掌屈80°となれば、運動制限による支障が認められるのに、4分の3を超えており、機能障害としての12級6号は非該当になります。
     骨折部の変形癒合を立証し、痛みを訴えても、神経症状で14級9号がやっとです。

     3DCT画像、症状と支障の実態を検証した上で、症状固定を優先させることも十分予想されます。
     医師では想定できない領域で、ここが後遺障害の奥の深いところです。

手根骨の骨折 有鈎骨骨折(ゆうこうこつこっせつ)

 有鈎骨骨折(ゆうこうこつこっせつ)と読みます。
 鉤骨折(こうこっせつ)とも呼ばれ、右手では、環指と小指の中間、下方にある手根骨の1つで、手のひら側に、突起=鉤が存在する特異な骨です。
手根骨の骨折 有鈎骨骨折
手根骨の骨折 有鈎骨骨折2

手のひら側のCT画像ですが、突起=鉤が骨折しているのが確認できます。

 交通事故では、バイクのアクセルを握った状態での出合い頭衝突で、右手に多く発症しています。
 自転車、バイクから転倒する際に、手をつくことでも発症しています。

 交通事故以外では、ラケットやバット、ゴルフのグリップを振ることで、有鈎骨骨折が発生しています。
 ズレのない骨折では、6週間前後の前腕部以下のギプス固定が、ズレ=転位の大きいときは、骨折している鉤の切除が実施されています。
 切除術では、1週間の外固定で、手が使用できますが、スポーツの開始は、4週間以降となります。

 
有鈎骨骨折における後遺障害のキモ

  1. スポーツでの骨折なら、一般的には、後遺障害を残しません。
  2.  スポーツに伴う有鈎骨骨折では、ギプス固定であっても切除術であっても、後遺障害を残すことなく治癒しています。

  3. ところが交通事故では、衝撃力、破壊力が、スポーツとは段違いです。
  4.  骨折部の痛みが長期に続くことが予想されます。
     骨折部の変形を3DCTで立証し、神経症状で、12級13号、14級9号の獲得を目指しています。
     少数例ですが、手関節の可動域制限で12級6号も経験しています。

  5. 専門医の受診が急がれます。
  6.  手根骨の骨折で共通することは、主治医がこれを見逃すことが多いことです。
     受傷直後から骨折部に痛みや動作痛が発生するのですが、いわゆる激痛ではありません。

 

 訴えが乏しいことに加えて、XP撮影であっても、2方向からでは確認することができません。
 「しばらく様子を見ましょう」ということなり、4か月を経過しても痛みが引かず、この頃になって、慌てて専門医を受診、幸い、骨折が発見されても、遅いのです。
 なぜならば、損保料率機構調査事務所が、本件事故との因果関係を疑問視するからです。
 早めに専門医を受診することが重要となってきます。

手の構造

 手や指は、叩く、擦る、物をつかむ、握る役割を果たしていますが、複雑な人間のからだの中でも特に繊細な構造となっています。
 手や指には繊細な知覚があり、様々な情報を脳との間でやり取りしています。
 複雑な構造をした骨・関節、それを取り巻く筋肉や腱、神経、血管がぎっしり凝縮されているため、ほんの小さな怪我でも、日常生活や仕事上で、大きな支障が出現することが予想されるのです。
手の構造
 指先から下に、末節骨、中節骨、基節骨、中手骨、親指には、中節骨がありません。

 中手骨の下に位置するのは手根骨で、遠位手根列には、大菱形骨、小菱形骨、有頭骨、有鈎骨が、近位手根列には、舟状骨、月状骨三角骨が配列されています。
 手根骨のうち豆状骨は尺側手根屈筋腱の中にある種子骨です。

 具体的には、橈骨と尺骨および8つの手根骨で構成される手関節、指には24の関節など、多数の関節を有しており、手の骨は、8つの手根骨、5つの中手骨、5つの基節骨、4つの中節骨、5つの末節骨、合計27本の骨で構成されています。
手の構造2

 さらに、手関節の尺側には、TFCC=三角線維軟骨複合体が存在し、手首の骨を支え、手首の外側の衝撃吸収作用の役割をしています。