頭部外傷 頭部の構造について

 

24-1 頭部外傷 頭部の構造について
冠状断のイラスト

 
 意識障害を伴う頭部外傷では、高次脳機能障害、重度の後遺障害が遺残することが予想されます。
 ここでは、頭部、脳の構造や役割について常識的な理解を深めます。

1)頭蓋骨
 頭蓋骨は、脳を保護する脳頭蓋と、顔面を形成する顔面頭蓋から構成されています。
 脳頭蓋は、さらに頭蓋冠と頭蓋底に分かれます。
 頭部は、脳が頭蓋骨という固い容器に収納されている構造となっています。
 頭蓋骨よりも外側を頭蓋外と言い、頭部軟部組織がおおっています。
 頭蓋骨よりも内側を頭蓋内と言い、脳が髄膜に包まれた状態で存在します。
 脳に対して影響を及ぼす頭蓋内の損傷の有無が、頭部外傷では問題となります。

2)髄膜
 頭蓋骨の下には、脳を包んでいる髄膜という膜があります。
 髄膜は外側から順に、硬膜、クモ膜、軟膜の3層構造となっています。

頭部外傷 頭部の構造について

①硬膜
 硬膜は、頭蓋骨の内面に張りついているラバー状の丈夫でシッカリした膜です。
 硬膜は、大脳鎌と呼ばれる左右の大脳の間にくびれ込んでいます。
 また、大脳と小脳の間には小脳テントを形成しています。

②クモ膜
 クモ膜は、硬膜と軟膜の間にある透明な膜、薄く弱い膜で、ピンセットでつまむと破れます。
 軟膜との間には、クモ膜下腔という繊維性のネットがあり、脳脊髄液で満たされています。
 このスペースに出血が起こるとクモ膜下出血になります。

③軟膜
 軟膜は、脳実質に張りついている透明な膜です。
 脳の表面そのものですから、はがすことはできません。
 くも膜よりも内側を、無色透明の脳脊髄液が満たしています。

④脳脊髄液
 脳と脊髄は脳脊髄液という液体の中に浮かんでおり、くも膜の内側を無色透明の脳脊髄液が満たしています。脳脊髄液は、外からの衝撃を吸収する、脳と脊髄の新陳代謝を調節するなどの役割を果たしています。

頭部外傷 頭部の構造について

 
 


 
 
3)脳

頭部外傷 頭部の構造について

 脳は、大脳、中脳、小脳、脳幹の4つの部分で構成されています。
 中脳は、間脳とも呼ばれています。

 大脳は、前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉に分けられ、それぞれ異なる機能を有しています。

 

頭部外傷 頭部の構造について

 

部位役割
前頭葉行動の開始、問題解決、判断、行動の抑制、計画、自己の客観化、情緒、注意・組織化、言語表出、
側頭葉記憶、聴覚、嗅覚、言語理解、
頭頂葉触覚、空間認知、視覚認知
後頭葉視覚
脳幹呼吸、心拍、意識・覚醒、睡眠
小脳バランス、運動調節、姿勢

 

頭部外傷 頭部の構造について

 
 
頭部外傷 高次脳機能障害認定の3要件

1)頭部外傷後の意識障害、もしくは健忘症あるいは軽度意識障害が存在すること、

  1. 当初の意識障害、半昏睡~昏睡で、開眼・応答しない状態、JCSが3~2桁、GCS、12点以下が少なくとも6時間以上続いていることが確認できる症例、
  2.  

  3. 健忘あるいは軽度意識障害、JCSが1桁、GCSが13~14点が、少なくとも1週間以上続いていることが確認できる症例、

 

意識障害 JCS
Ⅰ覚醒している

(1桁の点数で表現)

0 意識清明

1(Ⅰ-1)見当識は保たれているが意識清明ではない

2(Ⅰ-2)見当識障害がある

3(Ⅰ-3)自分の名前・生年月日が言えない

Ⅱ刺激に応じて一時的に覚醒する

(2桁の点数で表現)

10(Ⅱ-1)普通の呼びかけで開眼

20(Ⅱ-2)大声で呼びかける、強く揺するなどで開眼

30(Ⅱ-3)痛刺激を加えつつ、呼びかけを続けると辛うじて開眼

Ⅲ刺激しても覚醒しない

(3桁の点数で表現)

100(Ⅲ-1)痛みに対し払いのけるなどの動作をする

200(Ⅲ-2)痛刺激で手足を動かす、顔をしかめたりする

300(Ⅲ-3)痛刺激に対して全く反応しない

 

 この他、R(不穏)I(糞便失禁)A(自発性喪失)などの付加情報をつけてJCS200-Iなどと表す。

 

乳幼児意識レベルレベルの点数評価 JCS
Ⅰ刺激しないでも覚醒している

(1桁の点数で表現)

1あやすと笑う。ただし不十分で声を出して笑わない

2あやしても笑わないが視線は合う

3母親と視線が合わない

Ⅱ刺激すると覚醒する

(2桁の点数で表現)

10飲み物を見せると飲もうとする。

あるいは乳首を見せればほしがって吸う

20呼びかけると開眼して目を向ける

30呼びかけを繰り返すと辛うじて開眼する

Ⅲ刺激しても覚醒しない

(3桁の点数で表現)

100痛刺激に対し、払いのけるような動作をする

200痛刺激で少し手足を動かす、顔をしかめたりする

300痛刺激に対して全く反応しない

 

GCS

E○+V○+E○=合計○点と表現

正常は15点満点、深昏睡は3点、点数は小さいほど重症

開眼機能E

(Eye opening)

4自発的に、または普通の呼びかけで開眼

3強く呼びかけると開眼

2痛刺激で開眼

1痛刺激でも開眼しない

言語機能V

(Verbal response)

5見当識が保たれている

4会話は成立するが見当識派が混乱

3発語は見られるが会話は成立しない

2意味のない発声

1発語みられず

運動機能M

(Motor response)

6命令に従って四肢を動かす

5痛刺激に対して手で払いのける

4指への痛刺激に対して四肢を引っ込める

3痛刺激に対して緩徐な屈曲運動

2痛刺激に対して緩徐な伸展運動

1運動みられず

 

PTA、外傷性健忘について
重傷度PTAの持続
わずかな脳振盪0~15分
軽度の脳振盪1.5~1時間
中程度の脳振盪1~24時間
重度の脳振盪1~7日間
非常に重度な脳振盪7日間以上

 

 JCSは3桁が重度な意識障害で、GCSは点数が低いほど重度な意識障害と憶えてください。

 

高次脳機能障害における後遺障害のキモ

  1. 入口部分の3つの要件の中では、意識障害所見が最も重要となります。
  2.  つまり、意識障害のレベルが認定等級に直結しているのです。
     脳神経外科医は、MRIでびまん性軸索損傷の所見が得られなくても、意識障害のレベルで、それらの傷病の存在を推定し、診断しています。
     半昏睡~昏睡状態が6時間以上継続していれば、立証上は、なんの問題もありませんが、5、7、9級では、外傷後健忘や軽度の意識障害であり、担当医が、入院中の被害者をつぶさに検証して、その詳細を把握することは、現実問題として困難です。
     なぜなら、治療上の必要がないからです。
     実態に反して、3、4日で意識清明とされれば、この後、なんと具体的に症状を立証しても高次脳機能障害は入口段階で否定されることになります。

     

  3. 家族に対しては、受傷から6時間、1週間の意識障害の経過を詳細に確認し、それを申述書として文書化し、主治医には、申述書を提示して意識障害の記載を依頼します。
  4.  すでに、間違った所見の記載がなされているときは、申述書を示して、訂正をお願いします。
     この場合の訂正とは、新たな所見の記載を意味しています。
     主治医の理解を得るには、外傷性健忘のエピソードを具体的に説明することです。
     それでも、この立証に大変苦労します。

     

  5. 想定される4つのパターン
  6. 意識障害傷病名画像所見高次脳機能障害
    1
    2×
    3×
    4××××

     

    1であれば、高次脳機能障害の立証に、苦労はありません。
    2でも、なんとか頑張って立証に漕ぎ着けます。
    3となれば、高次脳機能障害の認定は極めて困難となります。
    4は論外で、高次脳機能障害として審査されることはなく、非該当です。

    軽度脳損傷、MTBIは4に該当し、高次脳機能障害として評価されていません。