外傷性頚部症候群による後遺障害

 本稿では、交通事故によるお怪我で最も多い症状である「むち打ち」、診断名で言う「頚椎捻挫」「外傷性頚部症候群」について検討します。

  • むち打ちで後遺障害が認定されるには、一定の要件がある。
  • 首の運動制限は、後遺障害の対象とならない。
  • 受傷からの一貫性が大切である。

頚椎の構造とむち打ちのメカニズム

 むち打ちでは、診断名として「頚椎捻挫」という言葉が使われます。頚椎は、合計24個の椎骨で構成されている脊椎のうちの、首の部分を言い表しています。脊椎とは、おおよそ背骨のことをいい、多くの椎骨が椎間板というクッションをはさんで、首からお尻までつながったものです。椎骨の空洞部分を脊髄などの神経が走行しています。24個の内訳は頚椎が7個、胸椎が12個、腰椎が5個で、さらに仙椎、尾椎からなって全体で脊柱を構成しています。
 頚椎には、それぞれ左右に関節包につつまれた椎間関節があり、椎間板や靱帯や筋肉で連結されています。
 追突などの交通事故受傷により、頚椎が過伸展・過屈曲状態となり、これらの関節包、椎間板、靱帯、筋肉などの一部が引き伸ばされ、あるいは断裂して、頚椎捻挫を発症します。
頚椎のメカニズム
 頚椎は7つの椎骨が椎間板を挟んで連なっており、頚部の可動域を確保しています。
 上位で頭蓋骨につながっている部位を環椎、その下を軸椎と呼び、この組み合わせ部分が、最も大きな可動域を有しています。
 椎間板、脊椎を縦に貫く前縦靭帯と後縦靭帯、椎間関節、筋肉などで椎骨はつながれています。
 椎骨の脊髄が走行する部分を椎孔といい、椎孔がトンネル状に並んでいるのを脊柱管と呼びます。
 脊髄から枝分かれした神経根はそれぞれの椎骨の間の椎間孔と呼ばれる部分を通過し、身体各部を支配しています。

むち打ちと後遺障害認定

 損保料率機構調査事務所では、外傷性頚部症候群の14級9号の後遺障害認定要件として以下の基準を用いていると考えられています。

「外傷性頚部症候群に起因する症状が、神経学的検査所見や画像所見から証明することはできないが、受傷時の状態や治療の経過などから連続性、一貫性が認められ、説明可能な症状であり、単なる故意の誇張ではないと医学的に推定されるもの。」

 以下、この要件を詳細に検討していきましょう。

受傷時の状態について

 受傷時の状態とは、受傷機転、事故発生状況のことを意味していると考えられます。受傷時の状態が審査の対象になるということは、事故の大きさが関係していることを示唆しています。物損の損害額が軽微な事故であれば、後遺障害が認定されることは難しいと言えます。物損の額については一概に数値化できるものではありませんが、バンパーの交換程度では、後遺障害が認められる可能性は高くないでしょう。
 相談時には、「物損の修理費用をお教えください」と確認しております。
 なお、歩行者や自転車、バイクVS車の衝突では、この限りではありません。

自覚症状について

 受傷時の状態に関連して、自覚症状も重要なポイントになります。
 事故直後は当然、首そのものが痛むことでしょう。しかし、それから数ヶ月経過してもなお首が痛む場合であっても、その首のみの痛み自体や首が曲がりづらくなったという運動制限は、後遺障害に認定され得る症状とは言えません。
 また、事故から数か月を経過して発症したものは、事故によるものではないと判断されます。
 むち打ちでは、外傷性の所見が得られないことが一般的ですので、後遺障害としては、神経症状の残すものとして14級9号が認められることになります。ただ、むち打ちでは明確な「神経症状」というよりは「何か違和感を感じる」と言った感覚も少なくありません。
 そこで、事故直後から、左右いずれかの頚部、肩、上肢~手指にかけて、重さ感、だるさ感、しびれ感が出現していたか等、言葉を変えながら症状の受け止め方を拡大してお尋ねするよう配慮しており、被害者様のサインを見逃さないよう留意しています。

治療経過について

 治療の経過とは、その言葉通り、どこで、どのくらいの頻度で、どのような治療を行ったかということです。
 事故直後から、左右いずれかの頚部、肩、上肢~手指にかけて、重さ感、だるさ感、しびれ感の神経症状を訴えて、その治療とリハビリのために継続的に通院していることが大切です。
 通院先については、整形外科にかかるべきであり、施術しかできない整骨院に偏重した通院では、治療実績として評価されないのではないかという懸念があります。
 また、回数については一概に申し上げられませんが、痛ければ頻繁に通院しているはずであり、少なくとも週に2回以上は通院していることが望ましいと言えるでしょう。
 仕事等がお忙しかったとしても、週に1回程度の通院を半年続けた程度では、後遺障害として認められる可能性は高くありません。後遺障害とは、完治を目指して懸命に治療を継続してなお残存したお身体の不具合なのだ、というのが自賠責保険における後遺障害の大前提であることを忘れてはなりません。

単なる故意の誇張ではないと医学的に推定可能なこと

 単なる故意の誇張ではないとは、被害者の常識性と信憑性が見られていると考えられます。
 たとえば、賠償志向が強く、発言が過激で症状の訴えが大袈裟など、相手方の保険会社が非常識と判断した被害者では、後遺障害は非該当とされる傾向にあるようです。

まとめ

 これらをまとめ、認定要件に当てはめて換言してみましょう。

「外傷性頚部症候群に起因する症状が、神経学的検査所見や画像所見などから証明することはできないとしても、痛みやしびれを生じさせるような事故受傷であり、当初から自覚症状があり、その原因を突き止めるために医師の診察・治療を受け、MRIの撮影も受けている。
その後も、痛みや痺れが継続していることが通院先や通院実日数から推測ができるところから、事故から現在までを総合して考えるのであれば、これは、後遺障害として認めるべきであろう。」

 調査事務所が、このように判断したときは、14級9号が認定されている、と言えるでしょう。
 当事務所では、これらの要件を詳細に検討する必要から、受傷直後からの対応を重視して取り組んでいます。